1998/9/1(火)[12w5d] 秋

9月である。会社帰りの空はすっかり秋の夕暮れ。朝夕もめっきり涼しくなり、夏の終わりを実感させるのである。
夏が終わってしまった。
夏といえばビアガーデンである。まだ暑さの残る夕暮れ時、どこかのビルの屋上でビールを飲む。周りは提灯なんかが飾られてあるのだ。きゅーっと冷えたビールジョッキできゅーっと冷えたビールをきゅーっと飲む。つまみなんかは不味くたっていいのだ。夏はビアガーデン。いいなあ。
ここ数年夏が来るたびに私は思った。「今年こそはビアガーデンに行くのだ!」と。それは固い決意だったはずだった。なのに実現していない。
今年の夏が来た時も思った。「今年こそはビアガーデンに行くのだ!!」と。なのにこの体たらく。ビアガーデンどころか晩酌だってできやしない。このまま何事もなく事が進めば、来年だって無理だろう。
そんな訳で秋はしみじみするのだ。


1998/9/6(日)[13w2d] 心配

人は失敗すると臆病或いは慎重になるものである。
例えば、ある人はラーメンに落とした生卵にあたり2・3日苦しんだ事があった。それ以降、生卵を使う時には必ず一度皿に割って鮮度を確かめるようになった。おまけに賞味期限にも非常に敏感になってしまったという。よーいちろーのことであるが。
一度妊娠に失敗している私としてもやはり腹の挙動は気になる。しかし、腹はうんとも寸とも言わない。少々不安になってしまうのである。
こういう時は誰かに大丈夫と言ってほしい処なのだが、如何せん、これに関してははよーいちろーは役に立たない。
仕方が無いので、自分で自分に言い聞かせることになる。

    その1.前回は15週まで持ったんだから、少なくともそれまでは大丈夫だ。
根拠は何も無い。大体15週を過ぎた後は一体どうするんだ。
    その2.流産するのは大体10分の1位の確率である。2回続くのは,100分の1しかない。だから大丈夫。
でも、今回だけ見れば10分の1は10分の1だ。
    その3.知り合いの人が性別を予言していた。ってことは生まれるってことだ。だから大丈夫。
...我ながら情けない。人はこうして宗教に走るのかもしれないなあ。
    その4.今年の正月引いたおみくじは大吉で、お産は「安心できます」だった。
いじましすぎる。それに実際のお産は来年になるんだよな。来年のおみくじが恐い...。

こうして私の悶々とした思考は、最終的に「なるようにしかならん」という結論を見て終わるのである。


1998/9/10(木)[14w0d] 81mm記録更新

定期検診である。今日で14週。4ヶ月も半ばである。
時々腹が痛むことがある。ズキっというかツクツクというか、表現が難しいのだが、唐突にぎゅっと痛くなる。でも、長くは続かない。
多分最悪の痛みではない、というのは以前の経験からわかる。
そういう意味では、流産したというのも役には立っているのかもしれない。全く前のときときたら、ずーっと痛くも痒くも気持ち悪くもなくて、突然どっかーんって感じだったからなー。
という訳で多少の痛みはよい知らせくらいに思うことにしているのだった。
腹の中身は現在81mm。着々と育っているようで何よりである。去年は5cmに辿り着かなかったから記録更新である。
今日はこの間のようには飛び跳ねてくれず、残念。形も何がなんだかよくわからず、ここが目と教えてもらってもさっぱりわからない。ちょっと心配になりかかったら医者が心臓の音を聞かせてくれた。さすがに21mmの頃とは力強さが違う。
念のため医者に腹の痛みのことを効いてみる。すると、
「そろそろお腹が張ったりするんじゃないですか。この位の時期までくれば大体大丈夫です。まあ、出血したりおなかが痛くなったりしなきゃ平気ですよ。」
???....えーっと。あのお、最近お腹が痛くなったりするんですけど...。 まいっか。何か釈然としないけど、元気そうだからいいことにしよ。なんか変だったら病院に行けばいいんでしょ。
すっかり開き直っている私はそう勝手に解釈したのであった。
この話をよーいちろーにすると確実に怒られるので、内緒なのである。


1998/9/14(月)[14w4d] 腹ばい

新しいパソコンが増えたり、LANをつなげたりというのでよーいちろーが机の下に潜り込んでケーブルと格闘している。
それをぽーっと見ていてふと思った。
そう言えば長い間腹ばいになっていない。
匍匐前進も背筋運動も趣味という訳ではないので、なれなくて辛いってものではないが、やっちゃいけないと思うとやりたくなるものである。
出てきた腹を支点にバランスを取るという図を想像するとちょっと楽しそうな気がする。やじろべえというか、起き上がりこぼしというかそんな感じになるのではなかろうか。が、しかし実際にはそんな恐いこと出来よう筈もないのだ。つぶれたらどーする。
考えて見たら、ブリッジも前屈もやってない。身体を思い切りひねるのもちょっと恐い。
つくづく不便な体になったものである。


1998/9/17(木)[15w0d] Xデイ

Xデイが近づいてくる。
去年流産したのが15週の3日目。今日がちょうど15週。Xデイは3日後というわけだ。開き直ったつもりでも、やっぱり気持ちの上ではかなりの引っ掛かりになっているらしい。
今まで気楽に受け止めていた腹のちょっとした痛みさえ、「もしかしてマズいんじゃ」という気になってくる。この間とは違うと打ち消してはみるものの、詳しく思い出そうとしたって10ヶ月も前の痛みの記憶なんて定かじゃないのだ。
定かじゃないけど痛かったのは覚えてる。ありゃあ、痛かった。なので出来れば今回はパスしたい。
この場合、陣痛はどうする、という問題はとりあえず置いておくのだ。
ま、何事もなく過ぎ去ってくれますように。
その日が過ぎたからって、全ての心配がなくなる訳でもないのになあ、と頭では思ってるのだが。
富士山の噴火予告があった日の麓住民の気分ってこんなものだろうか。


1998/9/18(金)[15w1d] 妊婦情報

私は会社では妊娠したことを言っていない。
以前上司には言ったのだが、気を使ってくれたのか、知れ渡ってはいないらしい。
ところで、会社にはもう一人妊婦がいる。彼女は1ヶ月ほど先輩妊婦なのである。ある日何かの拍子に彼女にだけは話したのだった。
それ以来、彼女はいろいろ仕入れた知識を私に教えてくれる貴重な人物となっている。
ある日いわく、「布団の上げ下ろしは逆子になるんですって。」
またある日いわく、「ズボンはむれるからよくないですよー。」
今日、パタパタと足音がしたと思ったら彼女が現れた。
「知ってました?!アイスクリーム食べると頭の薄い赤ちゃんが生まれるんですって!」
おいおい、それはいくらなんでもあんまりな情報だと思うぞ。


1998/9/24(木)[16w0d] びびる

Xデイは何事もなく過ぎ去ったのであった。
病院へ行く。今月の10日に行った時に医者には次は一ヶ月後と言われたのだ。間違えたわけでもなく、腹が痛いわけでも出血があったわけでも異常があった訳でも何でもないのだが、よーいちろーたっての頼みなのであった。相当びびってるのである。お互い様だけど。
2週間も早く来たことに対して「何しに来たのか」と冷たい対応をされるかと思いきや、さすが客商売、そんな事はない。
こちらのビビり具合を察してくれたのか、いろいろと検査をし説明をしてくれる。
結果としては、現在の頭臀長は99mmでちゃんと元気に育っているし安定期にも入っていることだし、「ビビらなくて大丈夫ですよ。」とのこと。
それでも、一応薬なんぞをもらって帰ってくる。するとよーいちろーは「ほーら、行って良かったじゃないか」と鬼の首でも獲ったように勝ち誇るのであった。
それにしても、今日の診療費はいつもの10分の1以下だった。医療費のしくみってのはようわからん。


1998/9/29(火)[16w5d] 腹

5ヶ月目ともなると腹はなかなかの盛り上がりを見せている。ふと下を見て、トレーナーの腹のあたりが膨らんでるなあと何気なく押さえてみるとあららびっくり、中身が詰まっている。以前から既に出てきつつあったものの、ここ数日で一段と出てきたような気がする。喩えるなら、腹に中華鍋でも仕込んだような感じである。
触れば感覚はあるから当然自分の体ではあるのだが、「何でこんな処に腹が?」という違和感がどうにもぬぐえない。
妊婦というとよく腹をなでたりさすったりしているものなのだが、私はそれをずっと胎児に対する何らかの意思表示だと思っていた。しかし、違ったのだ。あれは単に腹の確認だったりするのだ。にきびや口内炎を触らずにはいられないようなものなのである。
かくなる上はマタニティ用パンツにご登場願うしかあるまい。ご存知のように、マタニティ用パンツはでかい。しかも腹の部分の布がやたらと大きい。でもってウエスト部分のゴムは調整可能になっていて、今はまだ縮めてある。うーむ、このパンツがぴったりになった時の腹って一体どの位の大きさなんだろうか。


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