ここまでのあらすじ

 前年の11月に15週にして流産してしまった私であったが、そんな事はすっかり忘れ、のんべんだらりと愉快に暮らすのであった。


1998/7/25(土)[7w2d] 8.6mm脈打つ

最近の産婦人科は「またにてぃくりにっく」とか「れでぃーすくりにっく」とかそんなカタカナを使うのである。
そのクリニックに行った。
「妊娠したかもしれない」と思いはじめたのが3週間位前。
そう言いはじめたのは1週間位前。で、よーいちろーの反応といえば、「でも、まだわかんないんでしょ」の一点張り。
そりゃー、自信をもって絶対とは言えないけど。でも一応経験者がそうではないかと申し述べているのに素っ気無い対応である。信用が無いのか?
いい加減問答にも飽きたので白黒つけようと言うことになったのだった。
家から一番近い産婦人科。ここは去年の11月にOPENした処だ。去年はここに来ようとしてた直前に流産してしまったのだなーと感慨にふける。
中に入る。内装はピンクを基調としているが、造りは極普通の病院だ。とりあえず安堵。実は中がやたらとゴージャスだったらどうしようと危惧していたのだ。
問診があった後、診察。
腹の上に、ジェル状のものを塗ったくったバーコード読み取り機のようなものをあてられる。所謂エコーというやつであろう。
目の前の12inch白黒モニターに子宮の内部が映し出される。黒い丸い固まりのようなものが見える。
「これが卵ですねえ。うーん、見えないなあ」
そういえば、流産した時も見えなくて「駄目です」って言われたんだよな...。緊張がはしる。医者がバーコード読み取り機もどきで腹をぐりぐり押す。すると黒い固まりの中に何やら白っぽい物体が。
「あ、いましたね。ここが心臓です」
機械を何か操作すると画面の右半分に波形が描かれ、それに合わせて音がする。鼓動だ。かなり早い。生きているんだねー。
現在、頭臀長(頭から尻までの長さ。座高?)8.6mm。1cmにも満たない。それでも心臓は動いているんだなあ。なんか凄い。
そんな訳で、妊娠7週と認定されたのであった。


1998/7/30(木)[8w0d] 腹が減る

そもそもの異変は異様な食欲増進であった。もう夏も盛りだというのに、夏バテで食欲がないなら分かるが一日中空腹とは。もしや餓鬼が取り憑いたのではと思うほど。まあ結局は似たようなものではある。
たとえばこんな感じである。

    7:30 朝食を食べる。
    10:00 空腹感を覚える。
    10:45 空腹のあまり気持ち悪くなる。
    12:00 昼食を食べる。
    15:45 空腹感を覚える。
    16:30 空腹のあまり気持ち悪くなる。
    19:30 夕食。
    23:00 空腹感を覚える。
    24:00 寝てるから気持ち悪くはならない。
これで気のむくまま食事をした日には一日6食である。ちょっと恐ろしいことになるのではなかろうか。


1998/8/7(金)[9w1d] 報告

本当はこっそり妊娠していようと思ったのだ。病院には8月に入ってから行って、頃合いを見計らって徐々に皆様にご報告しようかと。
ま、大体最初からよーいちろーに言ってしまった時点で計画はなしくずし。意志の弱さを露呈してる。
それでも、実家と会社は落ち着いてから報告しようと決めた。実家については薄情者との謗りを免れ得ぬであろうが、何せ前科があるので、もし又と言うことになったらそっちを報告する方がよっぽど辛い。
そうしたところが上司から「盆明けに出張に行ってくれ」と言われてしまった。断る為には理由を言わざるをえないではないか。
上司に言ってしまうと、どうも実家に言ってないのが罪悪感になってしまう。 結局、報告することになってしまうんだなー。
世の中ってうまく行かない。


1998/8/8(土)[9w2d] 21mm育つ

検診の日である。
あれから2週間。大きさ(頭臀長)は21mmになり、心臓もちゃんと動いている。よかったよかった。
前回はなんだかよく分からない固まりだったのが、手足も分かるようになっている。
それにしても2週間で、約2.5倍。今私の腹の中では物凄い勢いで細胞分裂が行われているのであろう。
私の頭の中では遠い昔、生物の授業で習った内容が思い起こされるのであった。
受精卵が一個。それが2つ。2つが4つ。4つが8つ...。で、まーるい形になる。その内何処からかぐーっと穴があいて、口と肛門になるんだよなー。それから段々勾玉みたいな形になったりして。
あれ?、あれは最後はカエルになるんだっけ?少なくとも人間じゃないなあ。 うーん、2cmは超えたからすくなくともオタマジャクシの時期は過ぎているであろう。手足もあるし。


1998/8/20(木)[11w0d] 桃攻め

桃はおいしい。
冷蔵庫に桃のある暮らし。ああ、これを幸せと呼ばずに何といおうか。まさに桃源郷。...これは大袈裟か。でも私の中では随分長い間不動の一位なのである。
さて、もともと果物の出現率の多い我が家であるが、私が妊婦になって以来、さらにその頻度が高くなっている。
因みに我が家においては果物は義母によって「後は食べるだけ」の状態にして供給される。おかげで私はこの家に来て2年半、一度も自分で八朔・夏みかん・ざぼんの房の皮をむいたことがない。
そんなある日、桃が食後のテーブルに載ったのだった。
好物である。そりゃー食った。また、この桃が美味かった。人の分まで食った。3個は食べたろう。
その食べっぷりがいたく義母のお気に召したらしい。ふと気づけば冷蔵庫には桃が入っているようになったのだ。
「桃、むこうか」にこにこと言う義母。貪り食う私。
私にとっては夢のような、そんな情景が1ヶ月近く繰り広げられているのである。
そろそろ梨が食べたい今日このごろではある。


1998/8/26(水)[11w6d] 嘔吐

今朝のこと。
ちょっと寝坊した私は慌てて起きた。急いで食べた朝食はコーヒーとパンと桃。新聞を読むのもそこそこに急いで歯を磨く。
と、その時。
....ぅえ。
胃の内容物が少量逆流した。
悪阻。ものの本によれば5週位に始まり16週位で治まるらしいが、症状・期間ともに個人差が大きいらしい。人口に膾炙した表現では「宿酔が毎日続くような」症状が続くらしい。悪阻がひどくて入院する人もいるそうだから、なかなか馬鹿にはできないのである。
私はといえば非常に軽い。所謂「食べ悪阻」というのであろうか、やたらとお腹がすく。あとは、空腹・満腹時に何となく気持ち悪いという程度である。因みに流産した時は全くなかった。
これはよろしくない。何がよろしくないかというと、

    悪阻がない-->流産
    悪阻が(多少なりとも)ある-->今の処順調
こういう図式が頭の中に出来てしまうのである。従って、ちょっと普通だったりすると「もしや...」と思ってしまう。
でもって今朝の出来事であるが、まあ要するに起き抜けに朝飯をかきこむのはよろしくない、という教訓であろう。


1998/8/27(木)[12w0d] 53mmとびはねる

検診日。今日明日と福岡へ買い出しに行くので、その前に出かける。
だんだん以前流産した週が近づいてくるので緊張もまたひとしお。何せまだ腹の中の様子が自分じゃわからない。病院にある機械が家にもあれば、毎日でも確認できるのになあ。
本日は53mmになっていた。しかも、なかなか人間らしい形になっている。医者が唇・鼻・目の位置を教えてくれた。
で、飛び跳ねるのである。エコーで見ている間に3回くらい。面白い。病院にある機械が家にもあれば、みんなに見せてあげられるのになあ。
あまりの面白さにこれから福岡に行くことを医者にいい忘れ、後でよーいちろーに怒られてしまった。


1998/8/31(月)[12w4d] よーいちろー

よーいちろーという人は普段どちらかといえば楽天的な方に見受けられる。基本的な行動原理は「行き当たりばったり」の人なのである。
ところが、こと妊娠に関しては心配症である。私がちょっとでも大丈夫だろうかいうとすぐさま「医者へ行け」というのである。私としてはただ「大丈夫だよ」と言ってくれれば「そうだよね」で済むのだが、そうは行かないらしい。
私も言わなきゃよいものを言ってしまうのがいけないのであろうが。
今日も今日とて、「最近あまり気持ち悪くならないんだー」と言うと、「医者に行きなさい」とのたまう。ただ悪阻の時期が終わったのかなあ、という意味だったのだが...。
さて、最近腹が出てきたようなのである。妊娠していれば出てくるのは当然という気もするが、しかし、本当にその所為なのだろうか。今の時期って腹は出ているものなのか?
そう思って改めて腹を検分してみると、どう見ても贅肉としか思えないのであった。
でもって、今日は特に腹が出ている。
そこへよーいちろーが帰ってきた。
「ねえねえ、なんか腹がちょっとすごいんだよ。」
じっと腹を見つめたよーいちろーはまるでおぞましいものを見たかのように絶句した。
「...。それ、妊娠したせい?」
「......違うかも。」
「デブ。」一言言い残して着替えに行くよーいちろーであった。


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